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「こんな辺鄙(へんぴ)な島に嫁いできて、彼女が不憫なような気がしてならないの。こんな 言いしたくないんだけど……お嬢様だからね……」  多恵は視線を彷徨わせ、語尾が小さくなっていく。 「家族の贔屓目かもしれませんが……彼女は甘えたところもなく、自分の立場をきちんと弁えられます。それに彼女は、この場所をとても気に入っています。母が亡くなってからも、この島に行きたいと言っていましたから」  天野は膝に載せた拳を固く握り、必死に訴えかける。泰子がこの島を気に入っていたのは本当だ。何度も行きたがっていたが、母の面影を思い出すのが嫌で天野の方が避けていた。 「……だからどうか、どうか――」  微かに肩が震えだし、目の縁に涙が溜まっていく。 「俺がきちんと彼女を支えていく。俺もコイツも腹くくって、こうして頭を下げている。どうか、承諾して欲しい」  恭治も後押しするように、再び頭を下げた。親友にこんな真似をさせてしまっている自分が、如何(いか)に無力かを思い知らされてしまう。 「……わかったわ」  しばしの沈黙のうち、多恵が溜息と共に言葉を吐き出す。 「お前が良いなら、俺も別に構わない」  勇夫も事実上認めてくれたと見ても良いだろう。  了承が取れた事に安堵からか涙が溢れ出し、天野は何度も礼を述べて頭を下げた。恭治も「ありがとう。恩に着るよ」と両親に頭を下げる。  恩に着るのは自分の方だと、天野は強く唇を噛み締めた。

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