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長時間の話し合いの末、準備が整い次第すぐにでも泰子を嫁に迎える段取りとなった。しかしすぐにと言っても、それなりの根回しや婚礼の準備に時間がかかってしまう。
あまりにも時間がかかるようであれば、高松家へ自分が直接行って直談判しようとも考えていた。
婚礼については大掛かりなものにはせず、近くにいる親戚を呼んでの慎ましやかな式で済ませるという事で話は纏まる。
長男の婚姻なのに立派な式を挙げさせてあげられない事に対して、天野は申し訳無さで何度も頭を下げた。
多恵は「佳奈江の時に立派な式を見ているから、別に構わないわ」と優しく慰めてくれる。姑になる人が多恵であれば、泰子もきっと幸せに暮らしていけるだろうと天野は少しだけ心が軽くなった。
後は泰子と話をして夜逃げさながらあの屋敷から逃げおおせて来れれば、全ては上手くいく算段だ。
恭治の両親からはも天野自身はどうするのかと聞かれたが、恭治に話した通り自分は海外に行くので問題はないと話をして誤魔化した。
「今日も泊まっていきなさいね。遠慮はいらないわ」
疲れているはずなのに、多恵は普段と変わらない笑顔を天野に向ける。
「いろいろとありがとうございます」
「良いのよ。家族になるんだから」
多恵の一言に胸が熱くなる一方、自分がしようとしていることの罪悪感が押し寄せてくる。
「……はい」
振り絞るように返事をした天野は、恭治に促されるように広間を後にした。
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