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「恭治も本当にありがとう。恩に着るよ」
見送りの為に残ってくれた恭治にも、天野は頭を下げる。
「だからやめろって。男がこうも何度も頭を下げるもんじゃない。そんなお前の行く末を考えると、俺は心配でならん」
眉間に皺を寄せ、恭治は少し憤っているようだった。
「僕は恭治の人生を変えてしまうような真似をしてしまったんだ。頭を下げない方が可笑しいだろ」
居た堪れなくなり、天野は言い訳を口にする。
「……まぁいい。兎に角、準備が整ったら直ぐにでも葉書を送る。足が付かないように、差出人は書かないでおこう」
「分かった。こちらも泰子に話を付けて、いつでもそちらに行けるように準備しておく」
互いに固く握手を交わし合った後、天野は最寄りの駅から汽車に乗って都内へと戻った。
昼に屋敷に着いた天野は、女中に留守の間に変わりはなかったかと問いかける。
父が日本に戻ってきていて、此処に顔を出した旨を伝えてくるや否や女中は表情を曇らせた。何かあったのだろうと察しがつき、天野は構わないからと先を促す。
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