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「お兄様……どちらへ行かれてたのです?」
「泰子。その事で話があるんだ……落ち着いて聞くんだよ」
天野はベッドに腰掛けると、泰子もその隣に腰を掛け不安げな表情を浮かべた。
「母さんが療養先で行っていた島を覚えているだろ? 僕はこの二日間、そこに行って恭治に会ってきたんだ」
「……恭治さんに?」
「お前を……嫁に貰ってくれないかと話してきたんだ」
泰子は案の定、驚いた表情で天野を見つめていた。
「恭治も両親にも承諾は貰ってきた。もちろん経緯もちゃんと話した上で、向こうは快く承諾してくれたんだ」
天野は俯いている泰子の背を、宥めるように手を当てた。
「恭治なら必ずやお前を幸せにしてくれるはずだ。でもその為には、僕たちもいろんな物を犠牲にしてここを離れることになる」
天野は一旦言葉を切ると、息を吐き出す。
今までの暮らしを全て捨てて、島に嫁ぐとなれば不便な事も増えるだろう。
都会とは違って買い物にも苦労するだろうし、服装だって着飾ることが難しくなる。そう考えて、天野は複雑な心持ちになった。
父のお蔭で自分たちがいい生活を送れているのだと、改めて思い知らされてしまう。
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