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 泰子は青ざめた顔で俯き、考え込むように視線を彷徨わせる。事が起こってからまだ一ヶ月も経っていないのに、泰子の細身の体つきが更に痩せ細っていた。顔色も悪く、精気を失っている。心身ともに疲弊していることが、痛いほど伝わってきた。 「お兄様の意向に沿いますわ……あんな男の所で玩具にされて一生を終えるぐらいでしたら、静かな島で余生を過ごすほうが幸せですものね」  泰子がやっと力なく口角を上げ、天野を見つめた。その姿に天野は少しだけ安堵する。 「そうか。向こうの準備が整い次第、すぐにでも此処を発つつもりでいる。だからお前も、いつ発っても良いように準備しておくんだよ。それから、くれぐれも他言しないようにね」  そう言って天野は立ち上がった。これで泰子の心持ちもいくらかは軽くなったはずだ。  部屋を出ようとドアに手をかけると、「お兄様はどうなさるの?」と聞かれ天野は息を呑む。 「僕は……海外に行こうと思っている。もちろん。泰子の花嫁姿を見てからだけどね」  天野は振り返って優しく微笑みかけると、震える手でドアノブを回し部屋を後にした。

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