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「記憶……戻ったのか?」
池の縁に力なく座り込んだ天野に、ヒスイが苦い顔で切り出した。
項垂れたまま天野が微かに頷くと、「そうか……」とヒスイが小さく溜息を吐き出す。
思い出したら村に返すというヒスイの言葉は、果たして本当なのだろうか。それ以前に、既に追い出されているのも同然のようなものだ。どんな顔をすれば良いかも分からず、ぼんやりと髪から滴り落ちている雫が地面を染めるのを見つめた。
ジワジワと土に滲むような黒いシミが広がっていく。まるで天野の心の澱《おり》のようで、地面に沈殿していた。
「この場所……幸朗ともよく来てた」
唐突に幸朗の名前を出したヒスイに、信じられない心持ちで天野は顔を上げた。何故こんな時にまで幸朗の名前を聞かなければいけないのか分からず、天野は腹立たしさに唇を噛む。
天野の気持ちとは対象的に、ヒスイは何処かぼんやりとした目で一点を見つめていた。
「アイツさ……散策に行くんだと言って、迷子になるかもしれないのに森の中歩き回るんだ。止めても聞かない。お前と一緒で強情っぱりだった」
ヒスイの慈しむような声音と切なげな瞳に、天野は余計に苛立ちが募っていく。
「この場所を見つけて幸朗は酷く感動してた。いつもは五月蝿《うるさ》いぐらい話しかけてくるくせに……この池に取り憑かれたかの如く、呆気に取られた顔で黙り込んでた。だから――」
ヒスイの視線が柳の木の下に向けられた。
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