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「すみません……無罪を訴えると言っておきながら、この有様で」  家を出た後は確かにその心持ちでいたのは嘘ではない。それでも記憶を取り戻し、絶望感に支配された状態になると、村に行く考えは打ち消されてしまった。  それにヒスイは村と言っているが、村ではなく島だ。それも泰子や恭治がいる島だった。どちら側に出るか分かりもせずに、森から出て島中の騒ぎになれば恭治や泰子にも確実に知られてしまう。問い詰められる事は確実で、言い訳なんて出来るはずもない。もうこの森から出る事は叶わないだろう。  此処を離れる前に伝えておこうと、天野は濡れた手紙を見つめてからゆっくりとヒスイに視線を向ける。 「この手紙は幸朗さんがこっそり書いて隠してあったのです。結核で亡くなったのですよね? 血の跡が残っていました……」  ヒスイは悄然とした表情で俯き、質問には答えない。 「貴方はぶっきら棒だけど、根は優しくて人を襲う真似はしないだろうと書かれていました。だから――」  一瞬言葉に詰まる。嫉妬に駆られ胸が焼かれたように苦しくなった。

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