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「いえ……あの場所にはいつの間にかたどり着いていたのです。この森には初めて入ったものですから」 「じゃあなんでこの森に入ったんだ?」 「それは……」  まさか勇夫の言葉で、此処《ここ》に来たとは言えない。それに嘘か真か分からずとも、死にに来たことには変わりはない。 「お前って……嘘が下手とか、わかりやすいとか言われてたんじゃない」  呆れたようなヒスイの言葉に、恭治を思い出す。恭治の痛いたしげに自分を見つめたり、困ったように笑う顔を。 「そうかも……しれません」 「俺に気を使ってるんだろ。分かるよそれぐらい。それより本当の事を言ってくれない方が許せない」  ヒスイの憤りを肌で感じ、天野は観念して口を開いた。 「あの日は――」  差出人不明の葉書が天野の手に届いたのは、三月の上旬頃。何ヶ月にも渡った達久の責め苦に、我を失いかけていた時だ。  天野は泰子と共に、父の留守を見計らって島へと向かった。父の書斎に忍び込み、机に遺書めいた文面を書き綴った手紙を残して――

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