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父は仕事人間なのだ。職を失えば、自害する可能性だってあるはず。その考えに今更ながら気づき、足元から絶望感が這い上がってくる。
「や、やっぱり駄目だ!!」
突然声を上げた天野に、ミヨとミコが驚いて振り返る。
「ごめんなさい。ごめんなさい――」
足元がぐらつき、天野はしゃがみ込む。ひたすら懺悔の言葉を繰り返す。やはり自分だけ屋敷に戻れば良かったのだ。折檻は免れないだろうし、父の奴隷になるのも分かっている。それでも少なくとも、こんな罪悪感は抱えずに済んだのかもしれない。
「お、お兄ちゃん」
「どうしたの?」
怯える幼い声に構う余裕などなかった。天野は震える足を無理やり動かし立ち上がる。
「ヒスイさん……やっぱり僕は駄目なようです……貴方の求めるような幸せな記憶を渡せない」
天野は俯いたままヒスイの脇を足早に通り過ぎようとするも、ヒスイに腕を掴まれる。
「は、離してください!!」
天野が抗議の声を上げるも、ヒスイの手は一向に緩まない。
「お前たち、向こうに行ってろ!!」
ヒスイの荒い声に、小さな足音が遠ざかっていく。
「二人に当たらないでください!」
怯えている二人にヒスイが追い打ちをかけているのが許せず、天野は睨みつけるようにヒスイを見やる。
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