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苦虫を潰したような顔のヒスイは「お前が逃げようとするからだろ」と苛立たしげに腕を引いた。
「貴方が思っている以上に、僕には幸せな記憶がなかった!! 貴方といた記憶まで渡せというのですか!!」
ヒスイが驚いたように目を見開く。
「僕は……貴方と過ごした日々が一番、幸せだった……思い出さなきゃ良かった、こんな記憶。そしたら僕は……幸せだった貴方との思い出を抱えて逝けたのに」
思い出したばかりに、こんな目にあってしまったのだ。涙が止め処なく溢れ出し、天野は袖で拭っていく。
既に濡れてしまっている制服の袖は、思っている以上に重たく感じられた。
「いい加減にしろ!! いいから来い!!」
ヒスイは今までに無いほど怒っていた。天野の腕を強く引き、そのまま廊下を歩かされる。
「お前みたいな無力な存在が、そもそも大それた事をしようと思うのが間違いなんだ。どいつもこいつも、まるで自分が救世主にでもなったつもりで破滅しやがって! 幸朗だってそうだ。何が妹の為だ、笑わせるな。体が弱いくせに、命を簡単に投げ出しやがって……言っとくけどお前もだからな!!」
ヒスイに掴まれた腕が、痛いぐらい締め付けられた。
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