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「助けてやった恩すら忘れて、入水しようとしやがって。お前は大馬鹿だ。どんな思いで俺やアイツらがいたか分かってるのか?」
「そんな言い方は卑怯だっ。貴方が僕を突き放したのではないですか!! 僕は貴方を好いていると言ったはずです。貴方は僕を拒絶し、地の底へと叩き落としたのです。崖の上で背を押したのは貴方です!!」
さすがに黙ってはいられず、天野も声を張り上げる。思わぬ反撃にヒスイが息を呑むと、口を噤む。
気がつけば二人はヒスイの部屋の前に立っていた。
「黙って俺の言う通りにすれば、お前を自由の身にしてやる。これが最後だ」
ヒスイは苦しげに言うと、今まで立ち入らせようとしなかった部屋の襖を開く。
思っていたよりも小ざっぱりとした部屋には、いたるところに瓶や草花が置かれている。文机には雑然と広げられた書物や万年筆が置かれている以外、天野の部屋とたいして変わらない。
「入れ」
ヒスイに背を押され、天野は部屋に入る。あれだけ部屋に入ったことのある幸朗に対し嫉妬していたのにも関わらず、今の精神状態ではとてもじゃないが喜べなかった。
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