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「とりあえず着替えろ! 濡れたまま座られても迷惑だ」
ヒスイがタンスから着物を取り出し天野に手渡すと、ヒスイ自身も着替え始める。
濡れた制服を脱ぐと、素直に差し出された着物を着付けていく。少し大きかったが、文句が言える状況ではない。
着替えを済ませると、ヒスイが「座ってろ」と言って和箪笥の奥から小瓶を取り出した。
力なく座る天野の目の間に、ヒスイが腰を下ろす。
「前にも言ったはずだ。簡単に俺たちを簡単に信じるなと。それから――」
ヒスイの冷た声音に背筋に悪寒が走る。
「約束もするな、ともな」
ヒスイが瓶のコルクを引き抜く。ヒスイは本気で幸せな記憶を奪うつもりなのだろう。でも仕方がない事なのだ。最初に自分が約束をしたのだから……。
半ば諦め気味に、天野はぼんやりとヒスイを見つめる。
「全部飲めよ。吐き出すな」
ヒスイが僅かに顔を顰め瓶を見つめると、唇を噛みしめた。躊躇している様子を天野が訝しく思っているうちに、それを一気に煽った。
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