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目を覚ますと見慣れない部屋の光景に、天野は戸惑いつつ周囲を見渡す。
ヒスイが体を丸めるようにして肩を震わせているのが視界に入り、血の気が一気に引いていく。何が起きたのか一瞬頭が真っ白になるも、天野は這いつくばるようにしてヒスイの元へと近づいた。
「ヒスイさん!! 大丈夫ですか!!」
声を掛けつつ肩を揺さぶるも、ヒスイは震えるばかりで何も答えない。
天野が流した涙を舐めた事が原因だと思い出し、感染したように全身に震えが走る。
「なんでっ……どうして……幸せな記憶を奪うのではなかったのですか……」
幸せな記憶だったらこんな状態にはならないはずだ。
薬品を飲まされ、焼けるような喉の痛みと怒りや悲しみが押し寄せて来たのは覚えている。池で助けられたことも……
でも、どうしてあの場所で入水 しようとしたのか思い出せない。ヒスイに見放されたぐらいで、命まで投げ出そうとするだろうか。
「ヒスイさん!! 僕はあの場所で何故身投げしたのか分からないのです!! 貴方は僕の辛い記憶の方を奪ったのですか? どうして、そんな事したのですか!!」
天野が泣き叫ぶように、ヒスイの体を揺さぶった。
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