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混乱する脳裏で何故こんな事になってしまったのか、天野は必死に失った記憶を探し出そうと模索する。
この島に来た理由は覚えていた。泰子を恭治に嫁に渡すためだ。でもそれは父親が納得するはずがない事だった。それなのに何故、嫁にやることが出来たのだろうか。父が婚礼に来ていないのも可怪しい。泰子の駆け落ちの手引きでもした事で、自分と泰子の二人で逃げてきたのだろうか。
でもそれだと恭治や恭治の両親を説得したり、恭治と恋人まがいの事をした辻褄が合わない。肝心の動機の部分が抜け落ちていて、なんでそんな事をしたのか分からなかった。きっとその動機の部分に、何かしら自らを呪縛していたものがあったのだろう。迷い込んだら抜け出せない森に入るぐらいなのだから、 よっぽどの理由がなければ婚礼の宴を抜け出してまでして入らないはずだった。
「おまえ、だって……」
天野の思考を遮るように、ヒスイが苦しげな声と共に顔を上げていく。
「ひ、ひすい、さん……?」
ヒスイの瞳からは溢れるように、雫が流れ落ちていた。窓から射し込む微かな夕日に照らされ、流れ行く涙がまるで光り輝く金剛石《ダイヤモンド》の様で美しい。
思わず息を呑み、天野は見惚れてしまう。ヒスイが涙を流した事にも驚きだったが、その美しさに驚嘆してしまった。
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