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「……お前だって、俺の為に何かしたいって言ったじゃないか。俺がお前の為に何かするのは駄目なことなのか」
呆然と見つめる天野に対して、力なくヒスイが言葉を漏らす。いつの間にかヒスイの涙は止まっていて、体を起こすと力なく座り込む。
「……貴方が幸朗さんを好いていたからそうしたように、僕も貴方を好いているからそう言っただけの事です。だから……貴方がなんでこんな事をしたのか僕には理解できないのです」
天野からしてみれば、好いているだけではなくて恩もあった。縁側で零した悲しみに満ちた涙を、危険を顧みずにヒスイは拭ってくれたのだから。
嫉妬と恋情を滲ませた天野の言葉に、ヒスイが顔を顰めた。
「勝手な憶測で俺の心持ちを図ろうとするなよ。別にお前を好いていないとは言っていない。それに、俺が好いていたサチオとは誰の事だ?」
「えっ……」
ヒスイの言葉に天野は愕然として言葉を失う。ヒスイはやはり記憶を無くしていた。それも、とても大切な記憶を――
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