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「なるほどね……」  天野の表情を見て、ヒスイの中で納得したようだった。ヒスイは俯くと考え込むような仕草をした後に、小さく溜息を吐き出す。 「お前が気に病むことじゃない。俺が決めた事だから」  いつものように素っ気なく言い放つヒスイに、返す言葉が見つからず天野はヒスイを抱きしめる。 「お、おいっ! 苦しいから」  ヒスイの甘い香りが強く漂う。さっきも涙を流したにも関わらず、天野は再び目の前が歪んでいく。  なんで幸朗との記憶を無くしてまで、ヒスイがこんな事をしたのか納得がいかない。ヒスイが奪わねばならないほどに、苦しく辛い記憶があったのだろうか。  ヒスイがこうなってしまった事の悲しみと憤りに、天野は嗚咽を零す。 「うっ、ひ、ひすいさん……どうして、どうして……」  何度もどうしてと繰り返す天野に、ヒスイは天野の背に手を置く。 「言ったじゃん。妖怪は信じるな、ってさ……。これでもう信じないだろ?」  ヒスイが茶化すように、天野の耳元で囁く。 「そ、そんなの、狡いです」  天野は震える唇で、呻くように呟いた。  低い体温のヒスイを抱きしめていると、天野の体温まで奪われていく。  水に濡れていたせいか体温が更に下がっていて、鳥肌が全身に立っていた。それでも離れる事が出来ない。というよりも、離れたくなかった。 「ほら、離れろよ。寒いだろ」  天野が微かに震えているのが分かったのか、ヒスイが天野の肩を押す。それに対抗するように、天野はヒスイを固く抱きしめる。

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