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「全部思い出したんだろ? どうやってきたのか……もう分かるんじゃないのか」  ヒスイのにべもない言葉に、天野は我に返る。この期に及んでまで自分を帰そうとするのかと、やるせない気持ちが込み上げてしまう。 「……確かに帰れない理由はなくなってしまいました。それでも――」  天野は唇を噛み締め、肩を震わせる。 「ヒスイさんが幸朗さんの事を思い出すまで、僕は帰るわけにはいきません」 「無理なものは無理なんだ。俺の記憶は今……お前と出会った所よりちょっと前までしかない。それより前の記憶はさっぱりなくなっている」  ヒスイが静かに溜息を吐き出す。切なげに視線を落とすヒスイに、天野はより一層罪悪感が押し寄せてきてしまう。 「前にも言ったけど此処から出られないから俺は此処にいる。出たいと思っていない事もあるけど。案外、此処の生活は悪くないから……一生を終えるには丁度いいとも思ってる。だけど、お前は人間だ。こんなとこにいたって幸せにはなれない」  諦めているような呆れているような、何処か遠くを見つめるヒスイの瞳は長いまつ毛の下でぼんやりと影を落としている。

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