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「ヒスイさんは……僕とは一緒にいたくないのですか?」
天野は沈痛な面持ちで問いかけると視線を落とす。
ヒスイは天野を好いていると言った。それなのにも関わらず、人間だという理由だけで突き放そうとしてくる。その事は天野からしてみれば解せない事だった。
「お前は人間だから……」
「そんな事どうしようも出来ないじゃないですか。ヒスイさんが妖怪だってことを変えられないように、僕も人間であることは変えようがない。そんな事……幸せになるのに関係あるのですか? 僕は前にも言いましたよね。ヒスイさんが妖怪だろうと人間だろうと好いていますと……それに記憶を取り戻したって、変わらずに貴方を好いていますよ」
縁側で記憶を取り戻した時に、大切に思う人がいるかもしれないとヒスイは言っていた。確かに大切に思っている人はいる。泰子や恭治が幸せに暮らしているのか、確かに気がかりではあった。
忘れてしまった辛い過去をそのままにしておくのも、良いものなのか分からない。だからと言って、ヒスイを見捨てて此処を離れる事は出来そうになかった。
「僕の心残りは何より幸朗さんの事です。こんな形で貴方の気持ちを僕に向けてしまったことが忍びないのです。だからこそ貴方が……僕に傍に居て欲しくないと望むなら、せめて幸朗さんの事を思い出してからにしてください」
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