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 天野は一瞬呆気に取られるも、ヒスイの事だから幸朗が最後に望んだ事をあえて否定せずに、首を縦に振ったのだと考えれば腑に落ちた。 「そうですか……」  天野は憶測は述べずに、静かに肩を落とす。何か他に尽くす手は無いだろうかと、必死に思考を巡らせる。 「……お前さ、どんだけお人好しなんだ。もし俺が思い出したとして、お前になんの得があるんだ?」  考え込む天野に対し、ヒスイは呆れ返っているようだった。ヒスイの言うことはもっともで、ヒスイが思い出さない方が天野にとっては好都合なのは確かだ。  ヒスイは何かにつけて天野の中に、幸朗の面影を探そうとしていた。その度に嫉妬していたのも否定出来ない。幸朗に似ていると言ったり、似てないと言ったり。幸朗の事を知らない天野からしてみれば、肯定も否定もすることの出来ない部外者だと実感させられる一方だった。  埒が明かない状況に天野はどうするべきか考え倦《あぐ》ねていると、襖の外から「ヒスイ」と小さく問いかける声が聞こえ、二人同時に視線を向ける。  呼ばれたヒスイが小さく溜息を零すと、静かに立ち上がった。部屋の襖を開け、身を滑り出すようにして外に出ると襖が閉じられる。そこまでして、この部屋の中を知られたくない理由が、天野には分からない。

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