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 天野はヒスイと共に部屋を出ると、広間に顔を出した。開け放たれた障子の向こう側には闇が帳を下ろし、夏の夜風を吹き込んでいる。  縁側で闇を見つめていた小さな二つの背中が、気配を感じ取ったのか振り返った。天野とヒスイの姿を見つけると慌てた様子で駆け寄ってくる。 「お兄ちゃん!」 「もう大丈夫なの?」  悲しげに眉を下げているミヨとミコに天野は、優しく頭を撫でつつ「うん。ごめんね」と言葉を漏らす。 「食事は俺が作るから、こいつらの傍にいて。お前が居なくなった時……かなり動揺してたからさ」  そう言ってヒスイは広間から出ていってしまった。ヒスイの気遣いを有り難く受け取り、天野は二人をもう一度縁側へ行くように促す。  三人で腰を下ろすと闇に包まれている庭に目を向け、天野は静かに口を開いた。 「迷惑をかけてごめんね。このまま此処にいても、迷惑をかけるだけだと思っていた。結果的に……僕は記憶を取り戻せたのだけど」 「お兄ちゃん、記憶戻ったんだ」 「良かったね」  ミヨとミコが嬉しそうに互いの顔を見合わせる。天野は素直に喜べず「でもね」と付け足す。 「僕の記憶はあまり良いものじゃなかったみたいだ。だからヒスイさんが僕の辛い記憶と引き換えに、幸朗さんの記憶を――」

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