152 / 185

152

 ヒスイが記憶を失ったと言ったら、この二人は怒るだろうか。天野は顔色をうかがうように二人に視線を向ける。天野を見つめる二人は、不思議そうな表情で見返すだけで口を開かない。 「ヒスイさんから……幸朗さんの記憶を奪ってしまったんだ。僕は……」  庭先の闇に視線を戻すと、不思議と視界が揺らいでしまう。  遠くから聞こえてくる不気味な鳴き声が、森の中を反響して耳に届いた。昼とは違った顔に、もしあんな場所で一夜を明かすことになったらと思うと、今更ながら恐怖が湧き上がってしまう。  自分はいつも突発的に何かをしようとし、感情に左右され自ら沼に入ってしまう。三人の気持ちを考えもせず、ちゃんと向き合いもしないまま家を飛び出した。  苦しく辛い過去の引き金も、もしかしたら自分の起こした行動によって自ら引き起こした結果なのかもしれない。  手の甲の冷たい感触に、天野は視線を落とす。ミヨとミコの手が、乗せられていた。驚いて視線を向けると二人が切れ長の目元を赤く染め、天野を見上げていた。 「お兄ちゃんが無事だったんだから」 「これで良かったんだよ」  二人の目尻が下がり、まるで励ますかのように添えられていた手が強く天野の手を握る。

ともだちにシェアしよう!