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「僕にしてみればたいして変わりません。それに帰すと言ったところで、ヒスイさんは道を知らないのでは?」 「俺じゃなくて、あいつらに頼むんだ。あいつらと一緒なら出られるかもしれないだろ」  確かにミヨとミコはこの森を出入りしているようだった。幸朗の手紙にも各地を旅している双子と書かれていたはずだ。 「それならば、ヒスイさんだって出られるはずじゃないですか」 「俺は出る必要がないから此処にいる。他に行く宛もないのに、わざわざこの場所を離れる必要なんてない」  過去の記憶を失っているヒスイからしてみればそうなのかもしれない。それだったら人間も入りたがらないこの安息の地で、一生を終えるほうが幸せな事のように思える。種が異なる物を拒む人間の世界は、妖怪たちにとっては過ごしにくいはずだ。  ヒスイが立ち上がると「いつまでも此処にいても、しょうがないから」と言って天野の腕を引く。その低い温度に切なさが込み上げ、天野は唇を噛む。 「先に戻って風呂に入ってこい。池の水の匂いがする」  促されるまま、天野は一人で蝋燭を片手に来た道を戻るために歩みを進める。  背後で薪を焚べているヒスイの気配が徐々に遠ざかっていく。この森を出たら二度とヒスイには会えないだろう。天野にはそんな気がしてならなかった。

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