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湯船から上がると、天野は縁側に腰を下ろした。いつか最後になるかもしれないこの光景を、胸に焼き付けておきたかった事もある。生憎の空模様で、綺麗な思い出とまではいかなそうだった。
ヒスイが引き下がらない限りは、早い段階でミヨとミコと共に森から出されてしまうはずだ。
――ヒスイは何を思ってこれから生きていくのだろう。
幸朗を失い、天野も失うことになる。ヒスイは本当にそれで良いのか。天野からしてみれば、それは耐えられないことだった。
どんなに辛い記憶を奪われようとも、孤独だった過去の記憶は全て拭いきれてはいない。恭治の家で感じた家族に対する憧れ。父に見向きもされない寂しさ。泰子も結婚して島に嫁いでしまった。
たとえこの森を出たところで、自分はヒスイと同様に孤独の身となってしまう。孤独は恐怖だ。目の前に広がる闇が孤独を示唆しているようで、いつかは天野を呑み込んでしまいそうに思えた。背筋に悪寒が走る。
たまらず天野は立ち上がると、自分の部屋に戻り制服のポケットから小さな布袋を取り出す。中には翡翠色の指輪と金剛石 の指輪が入っている。
これは母の形見で、本当は嫁入り道具として泰子に渡すつもりでいた。でも泰子はそれを拒み、結納金を工面してくれただけで十分だと言って頑として受け取らず、天野が持っていた物だった。
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