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天野は部屋を出ると、通りがかりに浴場に立ち寄り水の音を確かめる。中から水が床を打つ音が聞こえ、天野は急ぎ足でミヨとミコの部屋へと向かった。
二人の部屋の前で天野は青ざめた顔で深呼吸を繰り返すと、「入るよ」と微かに震えた声で問いかける。
そっと襖を開くと二人が驚いたように、こちらを見つめた。二人は豪奢な着物から、寝巻である浴衣を着ていてこれから就寝するところだったようだ。
「お兄ちゃんが来るなんて」
「珍しいね」
天野が二人の部屋に入ったのはこれが初めてで、二人が驚くのも無理はなかった。早まる心臓を持て余し、天野は部屋の襖を後ろ手に閉める。
「二人にお願いがあるんだ」
天野は二人の目の前に正座して腰を下ろす。布袋から指輪を取り出すと、掌に乗せ二人の目の前に差し出した。
「うわー」
「綺麗だね」
目を輝かせ、二人が食い入るように見つめた。
「……これをあげる代わりに、頼まれてくれないかな?」
ミヨとミコをだしに使うのは気が引けるが、此処まで来たらこうする以外に方法が見つからなかった。自分はとてつもなく汚い人間だと、自己嫌悪から天野は奥歯を噛みしめる。
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