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「お前……何で泣いてるんだ? そんなに傷つくような事言ったか?」  不安げな表情のヒスイに、「幸せだなと、思っただけです」と天野は笑った。まさか傷ついてるのではないかと、心配されるとは驚きだった。  不意を突かれたように唖然としたヒスイは「自然と流す嬉し涙は初めて見た」とポツリと溢す。 「もしかしたら、見たことあるかもしれないけど……透き通ってて、綺麗なんだな」 「舐めてもいいですよ」  天野が笑みを浮かべたまま、縁側の前で立ち止まった。初夏から本格的な夏に変わりそうな、湿り気を帯びた熱い風が頬を撫でていく。  ヒスイと向かい合うと、天野は目を閉じる。遠くの方で蝉が(やかま)しく鳴いているが、それすらも素晴らしい音色のように聞こえるほどに、天野の心が沸き立っていた。  恋をして世界が変わった。見るもの、聞くもの、感じるもの。全てが違った世界のように思えてしまうほどに――  天野の肩に優しく手が置かれると、甘い金木犀の香りが濃くなった。近づいてきているのが分かり、胸が高鳴っていく。 「あっ!!」 「ヒスイとお兄ちゃん!!」  驚いたように叫ぶ声に、天野は慌てて目を開く。置かれていた手が瞬時に離れていき、ヒスイがばつが悪そうに視線を俯かせていた。

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