172 / 185

172

「仲直りしたの?」 「顔が近かったけど」  不思議そうに首を傾げている二人に言い訳も出来ず、天野は熱を持った頬を持て余す。 「……朝食の用意するから手伝って」  そう言い残すとヒスイは、さっさと背を向けって立ち去っていく。 「心配かけてごめんね。大丈夫だから」  天野は気を取り直すと、怪訝そうな二人に笑顔を向ける。 「仲直りできて」 「良かったね」  二人が顔を見合わせて笑い合う。 「お兄ちゃんは」 「ここにずっといるの?」 「うん。ずっと……ずっといる」  天野は自分に言い聞かせるように呟き、庭に目を向ける。  夏が差し迫っているこの庭の桜の木は、青葉を茂らせ涼しげに影を落としていた。綺麗に花を咲かせていた紫陽花は、花弁を減らし物寂しい雰囲気に変わってしまっていた。  季節の移ろいを感じさせられるこの庭は、天野にとってはヒスイとの思い出の一風景だ。  これから先もこの縁側で、細やかな幸せと静かな時を噛み締めたい―― 「ヒスイさんに怒られちゃうから行かないと……二人は座って待てて」  天野は名残惜しげに視線を逸し二人にそう言い残すと、ヒスイのいる炊事場へと足を向けた。

ともだちにシェアしよう!