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 久々の賑やかな食事は、天野が理想としていた家族の光景だった。一般的な家族構成とは程遠く、ましてや種も異なっている。それでもミヨとミコがはしゃぎながら食事を取り、ヒスイが「行儀悪い」と嗜めている姿を見るだけで、天野の心は満たされていく。 「お前もニヤニヤしてないで早く食べろ」  箸を止めてその光景を見守っていた天野にまで、ヒスイの小言が飛んでくる。 「つい、嬉しくて……」 「何が?」 「まさか自分が求めていた賑やかな光景を、こうして得ることが出来るとは思ってもみなくて……」  漬物のきゅうりを奪い合っていたミヨとミコの動きがピタリと止まり、二人の視線が天野に注がれる。 「僕の父は仕事ばかりで、家族とは滅多に食事をしない人でした。母も体を壊してからは離れて暮らしていましたので……だから僕は、妹と二人だけの食事の方が多かった……賑やかな食事風景はずっと僕の憧れだったのです」  天野の言葉にしんみりとした雰囲気が漂い、所在なさげにヒスイが俯く。 「じゃあ、これは」 「お兄ちゃんにあげる」  ミヨとミコが奪い合っていた漬物を天野の白米の上に置く。きちんと斜めに切られているきゅうりを、天野を慈しむように見つめてから二人に微笑みかける。 

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