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「まともに切れるようになったよな。最初の頃は見るに耐えなかったのに」  ヒスイが嫌味っぽく呟くと、何食わぬ顔で箸を動かしていく。 「不器用な僕がここまで出来るようになったのも、それだけの時間をヒスイさんと過ごしてきたからですよ」 「お前さ……恥ずかしげもなく、よくそんな事言えるよな」  ヒスイが呆れたような視線を天野に向ける。 「僕はきっと、誰にも寂しいとは言えないまま自分で自分を追い詰めていました。言っても無駄だと、どこかで諦めてしまっていたのかもしれません。結果としていろんな物を失いました。ヒスイさんと出会って、僕は変わったような気がします。貴方にはきちんと言葉で伝えないと、後悔してしまいそうだから……」  天野は恥ずかしげに視線を俯ける。ミヨとミコも不思議そうに天野とヒスイを交互に視線を向けていた。 「……調子狂う」  ヒスイがぽつりと零すと顔を顰め、空いた食器を重ねていく。  片付け始めたヒスイに、天野は慌てて箸を動かす。ふと、きゅうりを口に運んだ際にお盆が近いと気がつく。去年は記憶がなかったこともあって、天野は自分の母親が他界していることを知らず何もしないまま過ぎてしまっていた。

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