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夕食を終えた後、朱色で染まる空の下を竹筒を持って四人揃って森に入る。
蝉の鳴き声が辺りに一面に響き渡り、五月蝿いぐらいの大合唱にミヨとミコが顔を顰め「耳がキーンてする」「騒がしいね」と顔を見合わす。
池に着く頃には闇が侵食し始めていた。闇の帳を今にも下ろしそうな池には、睡蓮の花は眠っているように花を閉ざし、水面に浮かんでいる。華麗な情景を二人に見せられなかったことを、天野は残念に思えてならなかった。
「此処が……幸朗さんのお墓です」
天野は柳の木の下に腰を下ろすと、静かに目を閉じて手を合わせる。
懺悔の気持ちを必死で心の中で繰り返し訴えかけ、締め付けられるような胸の痛みに唇を噛み締めた。
静かに目を開けると、蝋燭にマッチで火を灯す。
「線香が蔵にありました。湿気てしまっているかもしれませんが」
一本ずつ線香を三人に手渡し、まずは見本を見せるように天野が線香に蝋燭の火を移す。移った火を手で扇ぎ消し、盛り上がった土の前に置いた石に乗せる。
ミヨとミコも天野の真似をするように、蝋燭で線香に火を灯すと石の上に乗せ手を合わせた。
「幸朗」
「またね」
ミヨとミコは頬を緩ませ立ち上がる。周囲に漂う線香の香りが濃いもの変わり、線香から細くたなびく白い線が上へ上へと向かっていく。
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