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ツイテルンデス 6話

「リンちゃん………あ……あっ、りんちゃん……」 田代の喘ぎ声が聞こえてきた。 それと、同時に俺に覆いかぶさってきた……でも、それは真っ黒い影にしか見えない。 ううん、真っ暗だ。 何も見えない中で、 「あっ、ああ、りんちゃん気持ちいい……はあっ……あっ」 田代の声だけが聞こえてて、俺、やられてんのに何も感じない。 痛みとか、感覚とかなくて……頭おかしくなってんのかな?って思う。 怖すぎて何も感じない……… 「いく、りんちゃん……りんちゃんの中で出すね」 田代の声。 俺の中に? やっぱ……おれ、田代にやられてんだ。 …………ばか!小麦のばか! 助けに来ないから…… 小麦………が、良かった。どうせやられるなら。 初めて相手なら小麦が……… うっ………ひっく、 喉の奥が熱い。なに?俺泣いてる? だって、俺…………怖いのに。 小麦のばか!! たすけて、小麦………小麦っ!!! 「琳!!!起きろ!!!」 えっ?小麦の声? 「目を開けろ琳!」 小麦?本当に小麦? 言われた通りに目を開けた。 俺を見下ろす小麦の顔。 「こ…………むぎ?」 俺は手を伸ばして小麦の顔を触る。 「琳………泣いてるから」 ホッとし顔の小麦。 本当に小麦?助けに来たの? 「うっ………小麦いいいい」 俺はたまらず小麦に抱きついた。 「琳………どうしたの?怖い夢みた?」 夢? 俺を抱きしめてくれる小麦の温かい体温。 本物だ。 「怖い………ゆめ、みたあ」 小麦にしがみつき、泣いてしまった。 夢?本当に夢だった? 「そっか、もう大丈夫だから」 頭を撫でられて安心してしまう俺。 良かった夢だったんだ。リアルな……… 怖かった。良かった小麦がいて。 ◆◆◆◆ 「落ち着いた?」 俺にホットミルクを渡しながら微笑む小麦。 俺は受け取ると頷く。 ホットミルクは甘くて美味しい。 「どんな夢だった?」 小麦に聞かれて、恥ずかしいんだけど、 「お、襲われる夢」 と答えた。 誰に襲われたかは言わなかったのに、 「それ、田代?」 と言われてビクッとなった。 「やっぱ、そっか……影虎が捕まえられないはずだ。琳の夢の中に逃げてたのか」 真顔で言われてキョトンとなる。 「昨日も邪魔してたのは田代」 田代………えっ?待ってなにそれ!俺の夢の中に逃げるとか普通の人間じゃ出来ないよね? じゃあ、田代って? 「ね、ねえ、田代って……学校で会ったよ?夢じゃなくて……」 サッカーボールが飛んできてガラスが割れた時。 あの日、俺は寝てないし、夢じゃない。 「琳が見た田代は実態じゃないよ」 「えっ…………」 それって?それってまさか…… 「琳、確かめに行こう。服着て」 小麦に腕を掴まれ立たされた。 そして、有無も言わさずに服着て、そして外へ。 どこ行くんだろう? 確かめるって何を? 小麦と横並びで歩く。 背の高さが違うのが気になるので少し後を歩く。 遠近法にはならないか、だったら俺が先を歩かなきゃダメだもんな。 俺が少し離れて歩くから小麦が振り返り、手を出す。 まるで、お手!!と言われたみたいで、つい手を出した。 すると、その手をギュッと掴まれ小麦は歩き出す。 えっ?おわっ!ちょ、なにこれ?ラブラブカップル? 「小麦離して!」 振り解こうとするが、ガッチリにぎられていて離れない。 「だめ!琳、迷子になりそうだから」 アッサリと却下。 でも、男同士で手とか、しかも先生と生徒。 これはやばいだろ!世間的にも! 「ちょ、離せってば!男同士だろ?誰かに見られたら?ほら、生徒とか」 「誰も見ないよ。見ても琳は女の子にしか見えない」 「おま、失礼だな!」 「それに、俺が手を繋ぎたいの!」 「うえっ?俺に拒否権は?」 「ない!」 即答ですか!そうですか! 「なあ、琳………寝言で小麦がいいって言ってただろ?あれって」 ど、どひゃーーーー!! 俺は多分いま、死ねる。 うそ、寝言言ったの俺? 「顔真っ赤」 小麦はニヤリと笑う。 「な、なんでもないから忘れてください!」 断じて言えない! 言えるわけがない。 「ふーん、あっそ、教えてくれたら手離してやろうかと思ったのにな」 「えっ?」 「教える?」 自信タップリのムカつく顔。 どっちに転んでも俺損だ。 俺は首を振る。 「じゃあ、田代んちまでこのままでいく」 「えええっ!!」 うそ!マジ?小麦ならやりかねん! でも、言えるわけがない。 初体験は小麦がいいと思ったとか……死んでも言えない! って、あれ?田代んちって言った? 「田代んち、知ってんの?」 「知ってるよ、俺、1年の時、サッカー部だったから」 「うそ!小麦サッカー部?なんで?なんで辞めたんだよ?」 「なにくいついてきてんの?」 クスクス笑う小麦。 いや、小麦ってスポーツ似合いそうだし、ユニフォームだって。 「琳、サッカー好きなの?」 「えっ?あ、うん、普通に」 「ワールドカップ騒いでたもんな琳」 また、クスクス笑う。 そ、そんなに騒いでた? つーか、見てたんかクソ! 「琳、ICカード持ってきた?」 小麦に聞かれ、駅だと気づく。 「う、うん」 慌てて出す。 1人づつ通るから自然に手が離れた。 ちょっとホッとしたんだけど、 なんか繋がれてた手が寂しく感じた。

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