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ツイテルンデス 8話
「あー、もう!また大きい声をだして!」
田代の母親が部屋に飲み物とお菓子を持ってきた。
「良かったじゃないのう!琳ちゃん先生がお見舞いに来てくれて」
ニヤニヤしながら田代を肘でつつく。
「ちょ、やめろよ、かあちゃん!あっちいけよ!」
田代はアタフタしながら母親を追い出そうとしている。
「もうね、ウルサイのよ、琳ちゃん先生が可愛いだの、今日も電車一緒だったとか……あんまり学校行かなかったくせに、琳ちゃん先生が来てからは毎日。ホント、ありがとうございます。先生」
なんだか、知らないけど、母親に感謝されている俺。
「あ、いえ!」
と言うのが精一杯。
「出ていけよ!もう!」
田代は無理やりに母親を追い出して真っ赤な顔して、咳払いをする。
「もう、バレてますから……先輩が林田先生好きだって」
「うわああああ!!」
小麦の言葉に田代はさらに真っ赤になりながら小麦の口を塞ごうとするが、ヒョイとかわされる。
「田代………」
アタフタする田代を見ると、耳まで真っ赤にしながら、
「そうだよ!俺はリンちゃんが好きだ!」
と俺にそう言った。
んん?いま、なんて?
好きだ?好きだ!?とおっしゃいましたか?
聞き間違いじゃ?
「えっ?もう1回言って?」
なんて言ってみると、
「ええっーーー!ちょ、リンちゃん!」
たじろぐ田代と、クスクス笑う小麦。
「天然」
小麦がボソッと呟いたのが聞こえた。
誰が天然だ!ガキめっ!
「だから、あの、………俺はリンちゃんが好きなんだ」
さっきよりは小さい声。でも、ハッキリと聞こえた。
「おれ………男だよ?」
真っ赤な顔の田代にそう返すと、
「り、リンちゃん……マジ天然?……知ってるよ、今更リンちゃんを女の子だと思ってましたとか言わないから」
田代は凄く真剣な目で俺を見ている。
なんか……言わなきゃ……
「付き合ってとか……言わないよ。リンちゃん困るでしょ?」
うっ!!なんか、気を使われている。
「それに気持ち悪いだろ?男に告白されてさ」
真剣な目はそのまま、田代は寂しそうな顔をした。
そんな悲しそうな顔すんなようう!!
俺は頭をブンブンと振って、
「き、気持ち悪くない!好きな気持ちを気持ち悪いとか思わない」
そう答えた。
「リンちゃん……まじ?じゃあ、リンちゃん」
田代の目がキラキラ輝き、俺に迫ってきた。
ゴツっ!!!
「いたっ!!」
田代の悲鳴と鈍い音。
どうした?と田代を良くみると、小麦が頭にゲンコツ落したらしく、頭を押さえて小麦を睨む田代の姿。
「てめ!先輩に!」
「そっちこそ、何、琳に触ろうとしてんだよ?」
拳を握り睨みつける小麦。
田代の方がひるんだ。あれ?先輩なのに?
「琳は俺のだ」
「はっ?」
俺と田代の声がハモる。
「琳と俺は付き合っている。だから、先輩は諦めてください」
へっ?なにそれ?いつ、そうなった?
「こむ……」
小麦って呼ぼうとして、ヤバイと口押さえる。いま、下の名前で呼んだらさ……激しく誤解される。
小麦は俺の横にきて、耳元で「俺の言う通りにしろ」と囁いた。
「付き合ってるのか?ホント?」
田代は俺をみる。
俺は小さく頷く。
すると、田代がいきなりガクンと前のめりになり、
「なあんだよおおお!もう!夢でみたまんまじゃんかあ!」
と叫んだ。
ほえ?なにそれ?
「夢でみてたんだろ?琳のこと」
小麦の質問で顔を伏せた田代は頭をウンウンと頷かせた。
「アパートの1室で徳川とベッドでキスしてた」
「うわ……」
叫ぼうとして、小麦に口を塞がれた。
うるさい!と小さい声で叱られました。
くそ!大人なのに!
「学校で琳に会っただろ?昨日」
小麦の質問にまた頷く。
「夢の中ではいつでもリンちゃんに会えるんだ」
小さい声で話しだす田代。
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