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オハライシタインデス。6話
◆◆◆◆
「琳、ほら、起きて着替えて」
身体を揺すられ目を開ける。
ボンヤリとした視界に小麦の顔。
「ん?なんで?」
自然と出た質問。
「今から病院行くから。琳の保険証って財布の中だよね?」
「………ん、」
頷く俺。
何で保険証なのかな?なんて考える。
「タクシーもう来るから、ほら、起きろ!」
小麦に無理やり身体を起こされると、風景がクルクル回ってる気がする。
なんだろう?
えっと、俺、どうしたっけ?
思考回路が回らない。
すると、小麦が俺をひょいと持ち上げて肩に担いだ。
俺の視界には床と小麦の足元。
2本の足がどこかへ向かっている。
そして、靴を掃いて、外へ。
あれ?
どこ?
頭がよく回らなくて考えきれない。
タクシーがどうとか言ってた?
それと、俺は何で担がれてんの?
疑問が浮かんだけど、やはり考えが回らない。
小麦が歩くから俺の身体はユラユラ揺れて、やがて、ドアらしきものが開く音が聞こえ、俺はドサリと何かの上に置かれた。
ん?
周りをみると、…………車の中だってわかった。
あ、そっか、タクシーか。
なんでタクシー?
そう考えていると、横に小麦が座ってきて、
「北川病院まで」
と言った。
「了解。どうしたの?弟さん具合悪いの?」
見知らぬ男性の声。
弟さんって誰のこと?
「熱が下がらなくて」
小麦がその男性に答えている。
「インフルとかじゃないの?流行ってるから」
男性の声が聞こえエンジンをかける音も。
「インフル?」
小麦にきいてみた。
「今から病院に行くから」
そう言われ、俺はその言葉を理解するのに数秒要した。
「やだ!!」
俺はドアに手をかける。
でも、手をかけた瞬間に小麦に押さえつけられて、
「車走ってるんだぞ!!」
と怒鳴られた。
怒鳴られたけど、でも、嫌なものは嫌だ!!
俺は押さえつけられた手を振り解こうとするけど、身体がいう事利かない。
「こらこら、お兄さんを困らせちゃダメだろ?中学生なんだから」
タクシーの運転手の声かな?
誰が誰のお兄さんだよ?中学生なんて乗ってないし、小麦は高校生だし、俺は大人。
わけの分からない運転手は無視して、俺は抵抗を続ける。
だって、治りたくない。
治ったら影虎が見れない!!
触れないじゃないか!!
せっかく、見えるのに。
小麦はわかってない。
こんなに影虎に会いたいのに、見えて嬉しいのに。
「小麦のばかあ」
小麦を見上げて睨みつける。
「そんな可愛く泣いてもダメ。」
押さえつける小麦は余裕な顔で俺を見下ろしている。
そして、無情にも病院に着いたみたいで、俺は小麦に担がれて、院内へ。
くそ!!くそ!!
小麦のばか!!
俺は椅子に座らせられて、
「琳が嫌がってるの分ってるんだけど、身体の方が心配だからさ」
小麦は俺の前にしゃがみ、見上げてくる。
しかも、影虎が俺の様子を心配そうに見上げてくる表情に似ている。
ズルい!!
そんな顔はズルい!!
「熱が下がれば影虎が見えなくなるのが嫌なんだろ?でも、影虎が見えるって事は他のモノも見えるって事なんだよ?わかる?」
小さな子供に言い聞かせるような優しいトーン。
小麦が心配しているのは分かる。
分かるよ………でも、それでも俺は………
「小麦、お待たせ」
知らない声がした。
声がした方へ視線を向けると、白衣を着た若い男性。
「マサ兄ごめんね、休みなのに」
小麦は立ち上がり男性に声をかける。
マサ兄?
白衣を着た男性はどことなく小麦に似ている。
えっ?お兄さん?
小麦って兄弟いたっけ?
「いいよ、その子?噂のリンちゃんは」
白衣の男性は俺の前に来て、視線を合せるようにしゃがむ。
「こんにちは、リン先生。小麦から話は聞いてるよ?」
ニコッと笑う顔は小麦に良く似ていた。
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