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「ブラックウェル」
呼び止められ、舗装された道を進んでいた小柄な人影が静止した。暗闇の中、徐々に距離を詰めて来た見覚えのある顔に眉を顰める。
他隊の尉官が2人、機嫌良さそうに片手を上げて見せる。小さく舌打ちをして、ブラックウェルはガタイの良い方を射抜く様に見上げた。
「悪いが馬鹿に構ってる暇はない」
「お前のその口の利き方こそもう少し賢くなれよ。俺の父親を知ってるだろ」
親の威光をちらつかせる相手に、苛立たしげに「何の用だ」と問う。グラントは態々怒りを煽る様な目つきで、小首を傾げて殺気を放つ同僚を見た。
「てめえはそうやって何時も他人を威嚇してたよな。知ってるぜ、訓練時代に集団強姦されそうになって以来1人部屋…可哀想に野郎の前でシャワーも浴びれねえそうじゃ」
「汚え口を閉じろ今直ぐ。ぶち殺すぞ」
躊躇なくトンプソンの銃口を此方に向けるブラックウェルに、しかしグラントは大口を開けて笑っただけだった。訝しげに眉を寄せ、何か言いかけた所でブラックウェルはその笑いの意味を知る。
背後から伸びた腕に一瞬で動きを封じられた。頭突きを仕掛けようとした途端、首筋をぎりりとグラントの手が締め上げる。
「…お前は嗜虐性を煽るんだ」
気絶するでもなく絶妙な力加減で締め付けられ、苦しげな表情を浮かべてブラックウェルは逞しい腕を掴んだ。微かな呼吸を繰り返し、それでも抜き身の刃物の様に鋭く瞳が相手を射抜いた。
噛み付いて、殺してやる。先まで己に興味の無かったブラックウェルが、明確な殺意を抱いて此方に刃を向けている。グラントはその事実に愉悦を覚え、肌が粟立つのを感じた。
「太刀打ち出来ない恐怖に直面した時、プライドの高い人間がどうなるか知ってるか」
するりとやけに熱い手が肌とシャツの隙間に滑り込んだ。グラントの目の奥がぎらぎらと昂りに光る。
ブラックウェルはその時初めて、現状に危機感を感じ眉根を寄せた。
無遠慮に差し入れられた無骨な手は、実に厭らしい動きで柔肌を撫でた。そうして確かめる様に、隠れていた突起を撫ぜる。無反応を決め込んでいたブラックウェルの肩が跳ね、確かに腕を掴む力が強まった。
「砕け散るんだ、硝子みたいに。そうして、すっかり駄目になる。お前がそうなったらさぞかし興奮するよ。なあトイ」
喋るな。黙れ。口を閉じろ。撃ち殺すぞ。低能な思考を俺に晒すな。下らない台詞を垂れてんじゃねえ。
頭の中が湧き起こる罵倒で満ち溢れ、ブラックウェルは苛立ちに奥歯を噛み締めた。愉快そうに締め上げた己を見詰めるグラントが、益々欲を孕んだ顔で耳元に口を寄せた。
そしてざらりと熱い舌でなぞった瞬間、図らずも息をつめた相手に男は喉を鳴らす。
このまま。このまま女の様な肩を組み敷いて、滅茶苦茶に犯してやりたい。それこそ硝子が砕けて、コイツが泣き叫ぶまでに。
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