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「戦争が終わって除隊されたら、本国で一緒に起業しないか」 目も眩む逆光の下で、翡翠の目だけを輝かせて、ブラックウェルの絶対君主が哀しくなる程いつも通りの声で言った。 二つ返事で付いて行った。 2年前の、出会った当初の自分であれば。 今はもう、とても手を取る事なんて出来そうになかった。 戦争が終わって尚、どうしようもない感情に縛られて、今までとまるで変わりのない逡巡を繰り返す自分がはっきりと見えた。 呆然と見詰めるブラックウェルがやがて口を開き、けれど何ら言葉にならないまま下を向き、込み上げる哀切に声なく笑った。 「…Sir…すみません、自分は、」 綺麗だった夕焼けが、何故かこの世の終わりの様だった。 戦争が終われば自由だ。何もかも。 それが可笑しな事に、只管に今の自分を絶望させた。 「実家が店をやっていて、帰ってやらないと…」 決して嘘では無い理由を述べる。 静かに聞いていたアッカーソンが、そうかと呟いていつもの様に部下の頭を撫でた。 「手紙くらい寄越せよ」 微笑む上官の大きな手に、胸が締め付けられる。 アッカーソンは一拍置いて立ち上がり、机上の書類を取り上げた。空は何時の間にか、すっかり闇が覆い始めていた。 “逃げるんですか” 不意に部下の追求が頭の中で響いた。 また、このまま。何の進退も無く。 「少佐」 気付いたら勝手に声が出ていた。 振り返る相手に、二言目を全く考えていなかったブラックウェルがつっかえた。 「…どうした?」 緊張した面持ちで見上げる部下の様子に、アッカーソンは努めて優しく続きを促した。 些少でも行動を起こそうと頑張った結果、ブラックウェルが口にしたのは本来何ら気負う必要の無い誘いだった。 「その…こ、今度、食事でもいかがですか」 「食事?良いよ?」 切羽詰まった部下に対し、アッカーソンはあっけらかんと了承する。一気にブラックウェルの全身から力が抜け、体内が安堵で満たされた。 しかしながら、不思議そうにそれを眺めていたアッカーソンが発した台詞により、部下は直後またもや寿命を縮める事となった。 「何なら今から行くか?俺は後サインするだけだし、予定が合う日もそうそう無いだろ」 「えっ」 ブラックウェルが露骨に青褪める。 ただの食事、されど食事。心の準備をする期間くらい設けて貰わなければ恐らく喉を通らない。せめて、一週間くらいは。 やっと踏み出した割にてんで弱気な部下の心象など知らず、久方振りに誘いを受けたアッカーソンは目に見えて上機嫌だった。 先を促す相手に、酷くぎこちない足取りで部下が続く。2人が消えたテラス席を、やがて夜が飲み込んだ。

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