48 / 105

chapter.3-1 Come hither, sweet robin.

O・G作戦以後、506連隊は暫く寧静な日常に身を置く事となった。9月のとある大規模作戦が失敗に終わり年内の終戦は断念されていたが、敵の明らかな弱体化は見て取れた。 「俺達を送り込めばクリスマスには全員家に帰れる」と隊員らは息巻いたが、残念ながら最高司令官の虎の子に下された命令は“待機せよ”だった。 「どうする、俺達が新年会やってる間に終わってたら」 「俺の部下が司令部相手に三次大戦を起こすでしょうね」 マクレガーとブラックウェルは連れ立って畑の側路を歩きながら、長閑な風景にそぐわぬ物騒な話題に花を咲かせた。 明日には同盟国の基地へ出立し、其処で訓練も兼ねて数日の間駐屯する予定だった。終末には外出許可も出ており、兵士らは早くも何処に観光に行くかでお祭り騒ぎだ。 「ところで大尉の週末のご予定は?」 「俺か?俺は…特に考えて無かったな」 「宜しければル・マンでデートでも如何ですか、サムに良い店を紹介して貰ったんですが」 「何だ、お前に誘われて断る理由は何も…」 マクレガーはふと、半歩前を行く部下の後ろ姿に違和感を覚えて歩みを止めた。 別に何て事はない、いつものM1943ジャケットにトラウザー、トンプソン短機関銃を背負った小柄な体躯。 さして変わった所など見当たら無い筈なのに。 「…大尉?」 怪訝な表情でブラックウェルが振り返った。 アンバーともシナモンとも取れる髪色が、光に透けてまた様相を変えた。 ――髪が少し伸びたか。マクレガーはそう結論付ける事にして、舗装された道へ脚を踏み出した。 「いや待て、せっかくの公休なんだからアイツでも誘えよ。どうせ暇してんだから」 「…はい?」 今度はブラックウェルの脚が止まった。 大きな瞳が、道の脇の方へと泳いだ。 「よ、予定があるでしょう」 「無えよ。あれに遊びに行く連れが居るように見えるか」 酷い言われようだ。ブラックウェルは顔を顰める。 少なくとも、先日第2大隊の幕僚と親睦会と称して賭博に興じていたのは知っているが。 何か弁護しようとして、しかし突如市街地の方角から銃声が響き、会話は唐突に終わりを迎えた。 即座に2人は民家の影に身を滑らせ、兵士が敵襲を叫ぶ現場を窺う。 建物に遮断されて方位しか知れないが、マクレガーは嫌な予感がして眉を寄せた。散発的な発砲は収まらず、やがて手榴弾が炸裂し煙まで立ち上った。 舞い上がる灰色の粉塵が一際高い家屋――即ち大隊本部を包むのを視認して、マクレガーの懸念は確信に変わった。 はっとして隣の部下の腕を捕まえようと手を伸ばし、空を切る。 「…待て、ブラックウェル!」 弾かれた様に戦場へと駆けていく部下が、瞬く間に街路の奥へと消えた。

ともだちにシェアしよう!