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「エルバート!貴様…話は終わっとらんぞ、おい!」 齢41にしてはやけに恰幅の良い軍人――第506連隊副隊長、ブライアン・モーズレイは大隊本部を構えた屋敷の廊下を大股で踏み鳴らした。 さっさと階下に戻ろうとしていたアッカーソンが、煩わしさを隠そうともしない顔で振り返る。 「よもや師団長の招集を蹴っ飛ばすとはどういう了見だ、僻地に追いやられたいのか?」 「…終戦間際に点数稼ぎに走る上の寝言を聞いても楽しくないでしょう」 「ふざけるな、お前を目に掛けてらっしゃるんだぞ」 「中佐、ご存知の通り俺は忙しい。これ以上下らない用事に感けてる暇は無い!」 何たる、絶句するレベルのふてぶてしさ。 米神を引き攣らせ、モーズレイはポケットに手を入れて完全に舐め切った面の部下に、本気で拳を叩き込んでやろうか煩悶した。 エルバート・アッカーソンという男は、確かに慧眼と萬に通ずる手腕を有した天才だった。ただそれに比例してか上官に対する遠慮という概念がなく、何故か反して部下にはやたらと甘かった。 苛立たしい事に、アッカーソンがどんな失言を漏らそうが異例の出世コースは揺るがない。明後日には己の頭上にいるやも知れないのだ。苛立たしい事に。 「この糞餓鬼め…それだけじゃない、師団長自ら見合いの話まで持ち込んできたんだ。今週末は絶対に空けておけ」 「何、見合い?どうぞ、本当に俺で宜しいなら」 モーズレイは訝しげに目前の部下を見やった。 翡翠色の目をこれでもかと不遜に光らせ、ご愁傷様とでも言わんばかりの態度でアッカーソンが見下していた。 「…いや、矢張り良い。忘れろ。師団長には俺から断っておく」 「そうですか?懸命なご配慮感謝します」 「ほざけ。お前みたいな不良にあの聡明なお嬢さんを任せられるか。今度それとなく、マクレガー大尉にでも話を回す」 「奴は妻帯者ですが」 「何だと?」 モーズレイは目を見開いた。この方そんな話は聞いた事がない。 「妙な冗談は止せ、エルバート」 「あれは秘密主義者なんです。5歳の娘も居る」 「…参ったぞ、師団長に一体何とお伝えすれば…」 額を押さえて嘆きを漏らしていた矢先、モーズレイはいきなり舌を噛みそうな衝撃を食らって地面に突っ伏した。 それが隣の男に蹴り飛ばされた所為だと知り、直ぐ様糾弾しようと顔を上げたものの、巻き起こった爆風に慌てて頭を抱えた。

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