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額をジリジリと灼熱の太陽が焦がす。死に物狂いで腕を振る青年達の傍ら、乳牛が青々と茂る牧草を食む。
1942年、8月の最も厳しい暑さに見舞われた折。
ニューダレル基地の敷地内では、志願制で招集された若き未来の兵士達が地獄の訓練の真っ最中だった。
「――どうしたもう限界か!?とっとと家に帰れ乳臭いガキ共!迎えのトラックは彼処に停まってる!」
「…未だ…未だ走らせて下さい…も、問題ありません…」
咳き込みながら真っ青な顔で青年が指揮官に縋る。
つい1時間前まで布団の中で夢を見ていた彼らは、叩き起こされ朝食も満足に与えられぬ間に、この地獄のマラソンに駆り出されていた。
正直舐めていた、と言わざるを得なかった。
もう日は昇りきろうかと言う時分になっても、一向に中隊長は走るペースを緩めない。
それ所かミリタリーケイデンス(軍隊労働歌)を強要し、声の小さい輩を執拗に追い回し、容赦無くリタイアを迫って家に帰そうとする始末だった。
1人、また1人と膝から崩れ落ち、道端に吐いては早々と荷物を取りに行けと勧告された。
夢の断たれた青年らを見放し、中隊長メドウズは多少は骨の有りそうな残り組を眺めた。最後尾の蛇行した連中は今にも死にそうだが、今日の所は勘弁してやろうかと思った。
集団を後ろから追い越し、早速頭角を現した先頭を確認する。
驚いた事に、条件をパス出来たのが信じ難い様な、恐ろしく小柄な青年が一団を率いていた。隣に付き、顔を見て更に言葉を失う。
「おい貴様!名前を言え!」
咄嗟にメドウズは叫び、到底軍人とは思えない青年の素性を尋ねた。
「マリア・ブラックウェルです、sir」
ヘーゼルの瞳だけをちらりと寄越し、涼しい声で兵士が名乗った。
「そうか、ブラックウェル。お前は何故此処に志願した?」
試験と言うよりは、殆ど興味本位でメドウズが質問を続けた。
酷暑に一筋流れた汗を拭い、それでも何ら疲労の色を見せず部下は淡々と返す。
「空挺隊員になるためです、sir」
答えになっていないその台詞に、何故かメドウズは一寸置いた後声を上げて笑った。
そして再び列から離れ、漸く一団を怒号で停止させたのだった。
「よし糞ども!!喜べ、準備体操は終わりだ!これより訓練に入る!」
ぜえぜえと屈み込んで呼吸を宥めていた兵士らが、一斉に顔色を悪くして落胆するのが見えた。構わず訓練場に追い立て、休む間もなく基礎訓練を続けさせた。
メドウズは笛を吹きながら、やがて苛々と頭を掻き毟り始めた。実は大隊本部の方角に消えた第1小隊の指揮官が、何時まで待てども姿を現さないのだ。
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