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レネハンの妄言には虫唾が走ったが、確かにブラックウェルが隊で孤立している状況は否めなかった。
尤もこのスタンスを崩した所でロクな事が無いのは、此処に来る前のキャンプで承知済みだった。
意気投合した友人にキスされ、そして何故かそれを巡って暴動が起き、仲間内が荒れに荒れて決壊した。
なんせ面倒臭い事になった。だったら端から目つきを悪くさせて離れていた方が、ブラックウェルにはよっぽど賢い選択に思われたのだ。
ただ、そんなブラックウェルにも知らぬ間に親しい存在が出来ていた。
優秀な自隊の指揮官エルバート・アッカーソン、それから大隊付の参謀キース・マクレガーである。
3人は時に階級の垣根を越えてふざけたし、勝手に本部の一室を借り切って飲み明かしたりもした。それがメドウズの頭痛の種になっていた様だが、中隊長自身も最近は巻き込まれつつあった。
一度アッカーソンに付き合ったメドウズが凄絶な二日酔いに襲われ、どうしようも無くなって職務放棄した事件があった。
アッカーソンもその時ばかりは気を遣い、大隊長に虚偽申告をしたが、内容が深刻過ぎて危うくメドウズが病院に移送されそうになった。
(後日、メドウズは外出許可取消を食らい、加えて大隊長に散々ネタにされた)
ブラックウェルは時折、その一件を思い出して意図せず口元を緩ませた。こんなに穏やかな気持ちで居られたのはいつ以来だろう。
そんな感慨に浸っていた折、後ろから自分を呼ぶ声が届いた。
「ブラックウェル」
振り向くと、最近は多忙で余り顔を合わせていなかったマクレガーが立っていた。
珍しく心なしか、普段よりも嬉しそうな様子で歩いてくる。
「見ろよ、俺の娘が作った」
後ろから肩を抱かれ、目前に愛らしい押し花に彩られたメッセージカードが晒された。素晴らしい力作だ。ブラックウェルは感嘆して手に取り、不器用ながら努力に満ち溢れたそれを裏返す。
“愛するパパへ”
恥ずかしげも無く、そんな一文が綴られていた。
美しい字体から察するに、彼の夫人が記したものだろう。
しかし隠したいのか、見せびらかしたいのか、一体どっちなんだ。
苦笑するブラックウェルを余所に、マクレガーは部下の肩を掴まえたまま贈り物を見詰めていた。
「時の経つのは早いな、再来週でもう3歳になる」
本来ならば側で見守ってやらなければならない、大切な時期に間違い無かった。誕生日も祝えない、大きくなった身体も抱いてやれない。
自責に満ちたマクレガーの瞳に、ブラックウェルは初めて父親としての姿を目の当たりにし、喫驚に一寸遅れて問うた。
「…写真は?」
「何、見るか…待てよ」
マクレガーが片手でジャケットを探り、彼の7つ道具の手帳を取り出した。
開かれた裏表紙を覗き込むと、タキシードに身を包んだ上司が赤ん坊を抱き上げている。隣には、綺麗な女性が純白のドレスを纏い微笑んでいた。
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