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「…そうだな…生憎2年前のしか」
「ちょっと待って下さい、何故この格好で……ああ。何、詰まる所出来婚ですか…少尉?いや、そんな明後日の方向見なくても別に責めてる訳じゃ…」
ブラックウェルは閉口し、早々に手帳を仕舞い歩き出した上司を追い掛けた。
マクレガーは何やらそれっきり黙ってしまったが、別に今の2人が幸せであるならば、何ら咎められる必要は無いと思う。
結婚か。脳裏に里親の啀み合う光景が浮かぶ。醜く、親戚が亡くなるや家探しに赴き、勝手に持ち帰ってきた骨董品を2人で奪い合う滑稽な姿が。
ブラックウェルが5歳の時、両親は竜巻から逃げ遅れて亡くなった。田舎で身寄りも無く、盥回しにされて辿り付いたのがボストンにある姉夫婦の家だった。
正直、あの家での生活は思い出すだけで不快だった。
なんせ夫婦は2人とも気狂いと呼んで相違なく、おまけにアル中で、酒が切れるやブラックウェルは毎度命懸けで逃げ果せなければならなかった。
そんな夫婦にマトモな職がある訳も無い。
ロクに食べれる物が出てきたのは数回で、粗相でもしようものなら食材にすると出刃包丁を持って追い回された。
与えられたのは心的外傷くらいだが、ブラックウェルが此処まで成長して生きてこられたのも事実だった。
軍隊に志願し、給料の3割を毎月里親の元に送った。一切お礼の類が来る事は無かったが、過去の清算という自己満足で今も送り続けていた。
その後の午後の演習で、ブラックウェルはメドウズが戦場における精神論を熱弁するのをぼんやりと聞いていた。
中隊長は常にも増して饒舌に、年若い訓練兵を相手に拳を作って息巻いていた。
「――良いか糞ども!お前らが戦場に着いた時点で、恐らく半分ぐらいは押っ死んでるだろう。だがな、作戦を完遂するには生き残らねばなるまい。自分は何としても生存するという強い意志を持て!勿論、部隊の一員であるという自負の下に、だ」
此処は空挺志願兵の訓練基地だ。確かにメドウズが言った通り、激戦区へ降下している間に大部分が消し飛ぶ事だって多分にあった。
ブラックウェルは何処か他人事の様に冷静に受け止め、緊張に慄く兵士らの脇で1人悠揚としていた。
するとメドウズが午前の訓練でも秀抜な成績を残した部下を見やり、いきなり演説に紐付いた質問を投げ掛けてきた。
「ところでブラックウェル、貴様は生き残ろうという強い意志を持っているな?」
名指しされた当人は、一寸目を見開いて静止した。そして少し考えた後に、ぽつりと思った通りの事を率直に述べた。
「…分かりません」
メドウズが意表を突かれた様に黙り込んだ。レネハンが、ボイドラーが、アッカーソンが、一斉に此方に視線を寄せたのが分かる。
ブラックウェルは何かフォローを入れようとして、然れど結局言葉が浮かばずに閉口する。漫然と見るともなしに青い空を眺め、其処に未だ見ぬ戦場を思い描こうとした。
けれど現れたのは、包丁を片手に涎を垂らす里親の姿だけだった。
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