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夜道を歩きながら考えた。
遺書を残す相手をどうするか、些少ではあるが貯金や家財の処理を任せる先が必要だった。
記憶を手繰ったものの、笑えるくらい知り合いが居ない。
いっそ寄付でも頼むか。孤児院か、支援団体か。
「マリア」
いつもの様に演習場の脇道を辿っていた矢先、急に後ろから名前を呼ばれて驚いた。
振り返ると、昼間も一緒に食事をした上司が立っていた。
「何処に行く」
「…ですから、夜の散歩に」
「なら俺が付いて行っても問題ないな」
隣に並んで此方を射抜く視線に、ブラックウェルは閉口してたじろいだ。どうせ全部メドウズ辺りに聞いているのだろう。
アッカーソンは事情を知り尽くした様子で、それでも尚何も言わない部下に不平を露わにしていた。
「その、独りの気分でして」
「レネハンと会うのに俺が居たら不都合か」
いやあ、別に…ブラックウェルは何と返して良いやら悩み、そう言えば自分は1人で来いとは命じられていないのを思い出した。
結局気付けば砂利道を肩を並べて歩き、2人でレネハンの兵舎を目指していた。
しかし乗り込んでどうするのか。ブラックウェルがちらりと一瞥すると、アッカーソンがいつもの傲然たる態度で意味深な笑みを寄越す。
辿り着いたドアを叩こうとした寸前、手を掴まれて遮られた。そうしてポカンとする部下の手前、アッカーソンは荒っぽいノックをして返事も待たず中に押し入った。
「…!な、何だ…アッカーソン、相変わらず不躾な…」
肩を跳ねさせたレネハンの意識が傍らのブラックウェルへと移り、またアッカーソンに戻って面白いほど狼狽している。
そしてあろう事か襟首を掴み上げてきたアッカーソンに、彼は間の抜けた呻き声を上げて目を白黒させた。
いきなり何を。すっかり出遅れたブラックウェルは、事の成り行きに開いた口が塞がらなくなった。
「不躾?人の物に手を出す方がよっぽど不躾でしょう」
「…何?…ひ、人の…?」
苦しげなレネハンの顔が、一気に驚愕に満ちて立ち尽くすブラックウェルを見た。傍観していた部下は、急に飛んで来た矛先に目を見開く。
「ま、マリア…お前、よりにもよってこの男と付き合ってるのか?」
「はい?」
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