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4-6
「さっき副連隊長が居た時、見合いの件も話していたのか」
「そうだな。余りに執拗だから折れた」
「ブラックウェルの前でか…?」
眩暈がした。アッカーソンは漸く、地形図から面を上げて友人を見た。
見知った翡翠の双眼の感情が、まるで読み取れなかった。
「…殴ってやろうかと思ったが止めた。お前にそんな価値も無い」
静かに言い渡してマクレガーは本部を去った。
部下を追って走る後ろ姿が遠退く。アッカーソンは地形図を折り畳んで対岸の机に投げ、簡素な椅子に凭れて天井を仰ぎ見た。
自分の為に生きろと言った。同時に、自分の為に死ぬなと言った。
自分を護る姿に苛立った。従順な姿勢を望んで置きながら、何一つ我儘を言わない相手に怒りが募った。
雁字搦めに縛り付けて首輪をやって、それでも何か自由に、本音で可愛げのない悪態でも吐いて欲しかった。
ブラックウェルを前にした自分はいつも矛盾で満ち溢れていた。それでもアッカーソンが望んだものは、たった一つの像に他ならず、いつも陽炎の如く記憶の中に揺らめいていた。
あの茹だる様な暑さの夏の日。
隣に居た部下は何の抵抗も無く、ただ下らない冗談に笑って此方を見ていた。
何処で何を間違えたのかも分からない。
気付いたら、もう目も合わせずに跪いて頭を垂れていた。
あれは、果たして好意なのか。
アッカーソンは雪の音に耳を澄まし、目を瞑った。儚い結晶が衝撃を紡ぐ訳も無く、誰も居ない小屋は只管に沈黙で包まれた。
お前に向けられる態度の方が、よっぽど好意なんじゃないか。姿を消したマクレガーに、心の内で率直な本音を漏らした。
親友と並ぶ部下の鮮やかな表情を思い返す。
輝くヘーゼルは、驚くほど綺麗な色をしていた。
「待て、ブラックウェル」
闇になお積雪が白く浮かぶ中、己を呼ぶ声にブラックウェルは振り向いた。さっき別れた筈の上司が、何時の間にか追い付いて此方に走って来た。
何か忘れ物かと脚を止めた先、予想外の距離まで相手は迫っていた。驚く暇も無く肩を掴まれ、間近で真摯な瞳に覗き込まれる。
「鍵を」
「え?」
「鍵を渡してくれ」
「いきなり、どうし」
「俺が突き返す。頼む、寄越してくれ」
こんなに矢も楯も堪らぬ姿を初めて見た。
目を見開く部下を前に、マクレガーは兎に角衝動に突かれてその肩を掴まえていた。
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