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「さっき副連隊長が居た時、見合いの件も話していたのか」 「そうだな。余りに執拗だから折れた」 「ブラックウェルの前でか…?」 眩暈がした。アッカーソンは漸く、地形図から面を上げて友人を見た。 見知った翡翠の双眼の感情が、まるで読み取れなかった。 「…殴ってやろうかと思ったが止めた。お前にそんな価値も無い」 静かに言い渡してマクレガーは本部を去った。 部下を追って走る後ろ姿が遠退く。アッカーソンは地形図を折り畳んで対岸の机に投げ、簡素な椅子に凭れて天井を仰ぎ見た。 自分の為に生きろと言った。同時に、自分の為に死ぬなと言った。 自分を護る姿に苛立った。従順な姿勢を望んで置きながら、何一つ我儘を言わない相手に怒りが募った。 雁字搦めに縛り付けて首輪をやって、それでも何か自由に、本音で可愛げのない悪態でも吐いて欲しかった。 ブラックウェルを前にした自分はいつも矛盾で満ち溢れていた。それでもアッカーソンが望んだものは、たった一つの像に他ならず、いつも陽炎の如く記憶の中に揺らめいていた。 あの茹だる様な暑さの夏の日。 隣に居た部下は何の抵抗も無く、ただ下らない冗談に笑って此方を見ていた。 何処で何を間違えたのかも分からない。 気付いたら、もう目も合わせずに跪いて頭を垂れていた。 あれは、果たして好意なのか。 アッカーソンは雪の音に耳を澄まし、目を瞑った。儚い結晶が衝撃を紡ぐ訳も無く、誰も居ない小屋は只管に沈黙で包まれた。 お前に向けられる態度の方が、よっぽど好意なんじゃないか。姿を消したマクレガーに、心の内で率直な本音を漏らした。 親友と並ぶ部下の鮮やかな表情を思い返す。 輝くヘーゼルは、驚くほど綺麗な色をしていた。 「待て、ブラックウェル」 闇になお積雪が白く浮かぶ中、己を呼ぶ声にブラックウェルは振り向いた。さっき別れた筈の上司が、何時の間にか追い付いて此方に走って来た。 何か忘れ物かと脚を止めた先、予想外の距離まで相手は迫っていた。驚く暇も無く肩を掴まれ、間近で真摯な瞳に覗き込まれる。 「鍵を」 「え?」 「鍵を渡してくれ」 「いきなり、どうし」 「俺が突き返す。頼む、寄越してくれ」 こんなに矢も楯も堪らぬ姿を初めて見た。 目を見開く部下を前に、マクレガーは兎に角衝動に突かれてその肩を掴まえていた。

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