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「ヘイ、ダン」
ミーティングから持場に戻ろうとしていた手前、塹壕に腰を据えた金髪が片手を上げた。ダンは懐かしい相貌に足を止める。
「サム」
「お前、死相が出てるぜ。どうしたよ。クリスマスのシャンパンパーティーが頓挫したのか」
A中隊のエースは煙草を咥えて口端を上げた。
瞳だけが油断なく前方を見据えていた。ダンはその場にしゃがみ、彼の構えた機銃の隣に腰を下ろす。
「そうだな、お前らが出て来たんだ。もう勝ち戦だ」
「さてな。隊長の様子が可笑しいのさ」
表情を消したサムが言った。今のA中隊はブラックウェルが指揮を執っている。様子が可笑しいという相手に眉を潜め、ダンは共に前を睨みながら問うた。
「どうした」
「俺のギャグの調子が悪いのかちっとも笑わなくなった。お前に死相が出てるって言ったけどな、あの人の方がよっぽど押っ死んじまいそうだ。なんせ、どーも悪い予感がするんだ…ダン、俺の予感は当たるからな、悪い方向には特に」
言ってサムは上着から双眼鏡を取り出し、掲げて前方の雪林を覗いた。
「悪い予感?」
「ああそう。例えばバセットのバニラアイスが…ちょっと待てよダン、その話はまた今度だ糞ったれ来やがった…!!」
2人は同時に塹壕に頭を伏せた。
間髪入れず頭上を銃弾が掠め、背後の枝が飛び散った。
慌ててサムの相棒が機銃を構え、木々の隙間から現れた影を掃射した。ダンが隣で小銃を構える。
白い塊が吹雪に紛れて蠢いていた。ギリースーツに前哨は完全に反応が遅れていた。
「おお、仲間内じゃ俺だけパープルハートを貰ってねえからな!今日がその日じゃねえかと思ってた!」
「うるせえよサム!ついでに2階級特進してろ!」
飛び交う銃弾の最中でも楽しそうにくっちゃべるサムに、相棒は悲鳴を上げて機銃に縋っていた。
いきなり背後で爆音が轟いた。
直後、舞い上がる土と破片が降り注ぐ。隣の塹壕に隠れていた兵士が、目を白黒させて現場を振り返った。
真横に砲弾が直撃したのを認めた矢先、息つく間もなく次が飛来した。一帯を轟音が包み込む。
逃げ惑う兵士を後目に、サムは煙草を吐き出して高らかに笑った。
「来た来た、クリスマスプレゼントだ。ありがとよ!」
「サム…!これは不味い…ちょっと…下がらないと死ぬ…!」
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