76 / 105
4-9
「ビリー、俺の相棒が情けねえ声を出すなよ。ダンを見てみろ、今に砲弾を弾き返すぜ」
正直なところ、ダンからしてもサムの楽天っぷりは狂っていた。
日頃バディを組んでいるビリーに同情しつつ、只管に砲弾の雨が止むのを待つ。凄まじい猛攻に地面が揺れ、視界は粉塵で覆われた。
「Medi――c…!!」
後方数メートルから負傷兵の叫び声が上がった。ヘルメットを押さえ、蛸穴で身を竦めていたサムが直ぐ様顔を出した。
「何処だ?第1小隊か?」
「サム…!サム…!」
「うるせえな、何だよ」
「前、前、見ろ、早く」
ビリーが何やら歯をガチガチ鳴らしていた。ダンの手が伸びて、無言でサムの顔面を前方向に向けた。
「――…おいおいおいおい!とんでもねえぞ…!」
サムは絶叫した。雪林の隙間を縫って、巨大なティーガー戦車が堂々と姿を現し迫っていた。
「微塵切りにしてイモに混ぜる気かよ!」
「糞ったれジャーマンポテトか!?どうする」
「逃げるだろそりゃあ!」
戦略的撤退だ、声を荒げるサムの真横をライフル弾が貫通した。ビルの身体が機銃の上に崩れ落ちる。
小銃を脇に投げ、ダンは素早く相手を地面に転がして仰向けにした。
大腿から血が噴き出していた。
手で圧迫するもまるで意味が無い、舌打ちをして止血帯を引っ張り出した。
「ビルが死ぬぞ!モルヒネは」
「ねえよ。セドリックにやっちまった」
一先ずサルファ剤をぶっ掛けて処置してみたものの、既に顔色が最悪だった。ダンはコートを脱いでビルを包んでやると、砲弾で穴だらけになった後方を見渡した。
恐ろしい事に、気付けばすっかり孤立していた。撤退を促す小隊長の号令が、驚くほど遠くから反響した。
「…まずいぞ。3人で心中だ」
「何だと?ビルがうるせえから置いていかれたか」
ティーガーの主砲が機銃の操作主に向かい、ゆっくりと稼働した。
サムは青褪めて手を離し身を伏せたが、砲弾はその頭上を通り越え、2人の遥か後方に着弾した。
ともだちにシェアしよう!