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「下手糞め…いや待て、誰か来たぞ」
「あん?」
飛び散る砂埃の中、足元をこれでもかと狙い撃つ弾を避け、1人の兵士が前哨へと走って来た。
振り返るや、無謀に現れた救世主にサムは唖然と目を見開く。
「…ほら見ろ戻ってきやがった」
サムのぼやきは掠れていた。
機敏な動きで彼は倒木を飛び越え、掃射の狭間を駆けて来た。そうして間抜けな面をしたサムの隣に滑り込み、いきなり剣呑な目で部下の胸倉を掴んだ。
「――サムてめえ!また俺に川に蹴落とされたいのか!」
「おお少尉、こんな森の中で遇うとは…奇遇だ」
「黙れピクニック野郎が。おいダン、お前も何時まで油売って……ビルが死んでるぞ」
「生きてますよ」
呆気に取られながらもダンが訂正を挟む。
ブラックウェルに胸倉を掴まれながらも、サムは苦しげに現状を説明し出した。
「前哨の戦力は俺達だけです。負傷したビルを運搬したいんですが、ティーガーに足止めを食らってる。機銃の弾も撃ち尽くしました」
「ビルの状態は」
「出血が酷い。一刻を争います」
ヘーゼルの瞳が刻々と距離を詰める鉄塊を映した。林木を薙ぎ倒す怪物を見て、瞳孔が収縮する。
サムは死相が出ていると言ったが、確かに余り宜しくない表情だった。
まるで、今にも身一つで突っ込んで行きそうな面だ。
とにかく何を考えているかも分からない、豪も気色の無い顔にダンの不安が募った。
そして案の定、指揮官の命令は2人の部下を困惑させた。
「サム、手榴弾を寄越せ。あのデカブツを止めて来る」
「はい?」
サムが目を剥いた。しかしブラックウェルは構わず、部下の上着から目的の物を奪い取った。
「纏めれば履帯の一部くらい破壊出来る。時間が無い、俺の銃をやるから援護しろ」
「待った、待って下さい。少尉、一端落ち着いて」
「うるせえ、良いからさっさと構えろ。ダン、左翼を頼む」
「その命令は受け兼ねます」
ブラックウェルの動きが止まった。
決然と言い放ったダンを、瞳孔の動きが可笑しな瞳が射抜いた。
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