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「俺に楯突くとは良い度胸だな」 「死にに行く様なものですよ」 「だったら何だ」 抑揚の無い声が一蹴するや、ダンの眉間に深く皺が刻まれた。 あっと思わずサムは声を上げかけた。あろう事か、ダンの拳が振り下ろされ、躊躇いも無く指揮官の左頬を殴っていた。 よろめき、数歩後退し、ブラックウェルが面を上げる。 口端の血を乱暴に拭い、上官は忌々しそうに二等兵を睨み付けた。 「…やりやがったなダン」 処罰なら後でなんなりと受けるつもりだった。 ただダンの思惑通り、上官は幾分か正気に戻っていた。 漸く目の焦点が合い、ブラックウェルはいつもの様に自分の得物を担いだ。それからメットを被り直し、壁を蹴って前哨の塹壕から脱出した。 「せいぜい祈ってろ」 吐き捨てる様に告げ、指揮官は瞬く間に雪林の中を遠ざかっていった。機銃の弾がその姿を追い掛ける。 サムは慌ててビルの小銃を構え、上官を援護すべく滅茶苦茶に撃ち始めた。 「糞ったれ…そのまま逃げてくれりゃ文句無いんだが…!」 「アレが逃げると思うか」 「まさか」 8.8センチ砲が、今度は塹壕の直ぐ手前に着弾した。衝撃に顔を顰め、降り注ぐ破片から身を護り、サムは唸った。 「…助かったぜダン。俺じゃああそこまで潔く殴れねえからな」 ダンが後方を見やる。巨大な穴と倒木で惨状と化した其処に、既に上官の影を確認する事は叶わなかった。 ブラックウェルは全速力で射程距離を駆け抜けた。そしていくつか死体を飛び越え、着弾後の窪みを跨ぐ内、前方に第1小隊の通信兵を発見した。 通信兵は何かを捜す様に地面を這い回り、かと思えば背後の爆音に驚倒して頭を抱えている。 この際何をしているかはどうでも良かった。 銃を肩に掛け、ブラックウェルは一目散に其方へ走り寄った。

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