79 / 105

4-12

「ッ少尉!…驚かさないで下さい敵かと…!」 飛び上がる部下に何ら構わず、手荒く地面に転がして背中に乗り上げた。 面食らった通信兵は大人しくなり、ブラックウェルは背負われた無線の受話器を奪い取った。 「エイブル・レッド…こちらエイブル02、砲撃支援を要請する」 『――…02、こちらエイブル・レッド。どうぞ』 「こちら02、座標15…2114、敵戦車1台及び1個中隊…弾種は好きにしろ、叩きのめせ!」 『02了解。仰せの儘に』 砲弾が一歩手前の機銃を直撃して吹き飛ばした。 蛸穴の底にこれでもかと身を丸め、サムは傍らの男に何やら祈祷の文言を漏らし始めた。 「ダン、俺が今から祈りを捧げてやるよ、良いか?…ああ、慈しみ深い父よ…平和の…何だ、待て、分かんなくなっちまった」 「頼む、サム黙ってくれ。それか今直ぐ主砲に突っ込んでくれ」 「…違うんだ、ダン。俺の実家は教会の手伝いをやってて…そう。つまり、暗記したんだが、こういう時こそ役に立つんじゃねえかと…」 また訳の分からない台詞をサムが言い切る前に、突然、爆音を轟かせて目前のティーガーが破壊された。次いでその右、左へと、今度は敵陣に向かって迫撃砲が降って湧いた様に注いだ。 煙を上げる戦車と、更には蜘蛛の子を散らす様に惑う敵兵に、サムとダンはどちらともなく顔を突き合わせる。 「…来たぜ。サンタ・マリア様だ」 「さっさと帰って夕飯にしよう」 相手の肩を一発叩き、どうにかビルを担いで塹壕を抜け出した。背後で土煙が撒き上がる中、2人は必死に倒木を越えながら前線を後にした。 ブラックウェルは一転する前哨を眺め、通信を切って受話器を置いた。機甲師団と交替する手筈となっていたが、既に敵は戦意喪失した様に見受けられた。 「ところで少尉、俺のルガーを知りませんか?…確かここら辺で…」 敷物にした通信兵が何かぼそぼそと物申している。 指揮官は一瞥だけ寄越すとやっと部下の上から立ち退き、別の負傷者も引き摺って現れた2人の姿を顎で示した。 「クレイグ、手を貸してやれ」 爪先で部下のヘルメットを小突き、踵を返して本部の方角へと歩き出す。 何時の間にか迫撃砲の轟音も消え、背景はまた静かな冬の未墾の地へと戻っていた。

ともだちにシェアしよう!