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「何の話だそれ」
「とぼけるなよダン、毎日一緒に居たんだぜ。お前度々物想いに耽っちまって、呼んでも上の空の時があったからな」
「おいおい、来たぜ面白そうな話が…オヤジ!エール追加してくれ」
サムの前で面倒な話題を振りやがって。心の中で毒づくも後の祭りだ。
幸い相手までは割れていない様なので、ダンはそれ以外はいっそぶちまけてやる事にした。
「告白してないし、する気も無い」
「…何だって?お前、自分にもっと自信持てよ。俺が言うのもなんだが、かなりイケてる部類だぜ」
「ジャスに信憑性がねえなら俺が保証しよう。お前は良い男だ、ダン。特にツラ」
「御二方にその様なお言葉を頂けるとは光栄の極み…まあ、男は引き際も肝心だからな」
「まさかその子、他に好きな奴でも居るってのか?」
事こういう話題に関しては、ジャスティンは呆れるほど察しが良かった。黙ってエールを口にする様を肯定と受け取り、顎に手をやって考え込んでいる。
「成る程ね…いや、それでもダン、俺は言ってみるべきだと思うぜ。何処の誰かは知らねえが、人間なんて明日にはころっと変わっちまうもんだ。手紙でも出してみろよ」
「ジャス、思うにコイツは…何だろうな、多分愛し方が違うんだ。アガペーの愛と言うか…難しいな」
驚いた事に、サムの方が更に上手に思考を読んだ。無駄に2年長く生きている訳では無い様だ。
「何処で何してようが幸せなら本望、そう言う事だろ」
煙草に火を点け、サムは特有のニヒルな笑みを浮かべた。ダンは何も返す事無く、グラスを満たすエールの水面をじっと眺めた。
出会い頭の、あの冷然とした瞳。此方を見やる、眩しげな表情。
人柄に心惹かれて――結局叶う事は無かったが彼の部隊を熱望し、追い掛けた初冬の折。建前を取っ払った剥き出しの感情を目にして、考える間も無く純真なその姿に夢中になっていた。
どうしても可愛くて、つい手を出した。その内に時間の甘さに溺れ、自分の手で幸せにしてやりたいと懇望した。
けれども、彼は根本のアイデンティティすらある男に見出していた。彼を、彼たらしめる存在を、果たして奪ったとして。
後に残る物を想像し、結局千切れそうな手を諦めて離していた。
逃げたのだろうか。
もう、何と言われても構わなかった。
彼が望んだ人生を、自分が無暗に壊して良い理由など無い。
これが最善だったのだ。ダンは言い聞かせるように唱え、既に泡の消えた琥珀色の液体を一息に呷った。
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