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ぼんやりと見詰める、足元が不意にグラついた。
驚いて見下ろすや、床の一部が決壊している。一体どういう世界観なのか不明だが、それほど悠長にしてられないのは理解した。
「中隊長、貴方は何故此処に?」
「お前が何時までもそんな所で油を売ってるからだ」
そんな所と言われても、そもそも此処は何処だ。ブラックウェルは眉を顰めたが、メドウズはお構い無しだった。
大柄な姿が踵を返し、また元来た道へと踏み出す。
「まったく最後まで世話の焼ける…」
「あ、ちょっと…せっかく会えたんですから、もう少し話を…」
「馬鹿言え呑気な。大体お前もさっさと行かんか」
「…行く?何処へ?」
後に続いて走り出しかけた脚が止まった。こんな訳の分からない、三次元かも怪しい世界で何を目指せば良いと言うのか。
メドウズは振り返り、放心する部下を三白眼で見やった。
「お前は何処に行きたいんだ?」
問いに問いで返す。中隊長の視線にブラックウェルはたじろいだ。
「いや…」
そんな自分の意思云々で動いて良い世界なのか。難しい顔で黙り込む相手に、メドウズは腕を組んで呆れている。
何だか妙に懐かしいその光景に、図らずも胸が熱くなった。
「…貴様は昔からそうだな、自分がどうしたいのか…全く言わん。確かに軍隊という集団において調和は大切だが、お前は軍人である以前に、1人の人間なんだぞ」
2年前に聞いた様な台詞を吐かれた。それでもどうして良いやら悟れず、ブラックウェルは立ち尽くしていた。
ふと、違和感に自分の身体を見た。
腹部からじわりと赤い染みが広がり、徐々に上着に広がり始める。ぎょっとして、それから漸く全てを思い出して閉口した。
終戦間近の麓町で、彼を護って撃たれたのだ。
傷の上に左手を宛がい、脈打つ箇所をまじまじと眺めた。なんてお誂え向きに狙ってくれた物だ。
ブラックウェルには最早、神の采配としか思えなかった。
「さあ、どうするんだ」
メドウズがじっと待っていた。
どうするも何も、付いて行く他無かった。
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