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その後、ブラックウェルは軍医も目を見張るほど順調に快方へ向かった。
どういうルートを使ったのかも知れないが、マクレガーが希少な医療品を部下の為に掻き集めたのも要因らしかった。
実に3ヶ月もの間、ブラックウェルは軍病棟に身を置く事となった。外では停戦が発効され、ほぼ全土での戦線が終結し、人々は新たな世界を築こうと立ち上がっていた。
アッカーソンは部下が回復するまでの期間、という条件付きで軍に留まっていた。
占領任務や動員解除の処理に当たっていたが、未だ諦めようとしないオックスフォードは引き止めに躍起だった。
ただアッカーソンに関わらず、軍に籍を残したい兵は極少数の様だった。しかし帰国に必要なポイントが足りず、帰りたくとも帰れない兵士が多分に存在した。
「…俺のポイントが基準に達してないなんざ、一体奴らはこの2年間何処を見てたんだ?尻の穴か…?」
書面を握り締め、椅子に陣取ったサムが頭を抱えた。ブラックウェルは煙草を咥えながら、窓際に頬杖を突いて部下の嘆きを聞いていた。
因みに無論、看護婦にでも見つかろうものなら叱られるのは必須だが、戒慎の心など母親の腹の中に忘れてきてしまった。
ブラックウェルは今にも暴れ出しそうなサムを見やり、口を開いた。
「足りてない?お前が?完全にふざけてるだろ、管理部門に抗議しに行くぞ」
「ああ、さすが俺達の少尉だ。伺いたいんですが、少尉の概算で俺は何点でした?」
「90…いや、93はいってるぞ」
「…ブラボー…少尉、前から思ってましたが…何だかんだで俺にべらぼうに甘いですね」
帰国に必要なのは85点。サムは5点足らずだった。
勿論、彼の同僚はそろって異を唱えていた。A中隊のエースが、そんな訳あるかと。
「待てよサム、お前の素行も加味したら…それ程誤算でもないな」
「何ですって?冗談でしょう、A中隊で一番品行方正なのは俺でしたよ」
「良いか糞野郎、お前が基地でよりにもよって、検査の日にしでかした事を思い出せ」
「“うっかり”少尉の寝室にコレクションをバラ撒いた件ですか?まさかそんな…俺の、少尉の夜の為を思っての優しさが裏目に出たと言うのか…何て事だ」
ブラックウェルは神妙な顔つきの部下を容赦なく蹴った。
サムが鳩尾を押さえて呻いた。
点数の件は少佐か連隊長にでも、話をしてやろうと思った。
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