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戦闘を知らない補充兵らは、武勇の話かと目をキラキラさせてジャスティンを見やった。
尚、ダンが3階から飛び降りたのは訓練での話だ。
更には単に“やらかした”のであって、実際は誇れる要素など欠片も無い。
「待て、怒るなよジャス」
「良いからお前も何か話してやれよダン…そうだ、O・G作戦での最高にクールな実績はどうだ?ほら、聞きたいって顔してるぜ、早くしろ」
ジャスティンは親友から煙草を奪い取り、我が物顔で咥えた。
「それなら俺より適当な題材が居るだろ」
「俺か?」
「違う」
「…ああ」
思い至ったジャスティンが、待ち焦がれる補充兵の中に踵を返す。
咳払いし、無理に厳めしい顔を作ってしゃがみ込み、低い声でささめいた。
「諸君。嘗てA中隊には軍神と呼ばれた指揮官が居てだな…その名を、」
「ブラックウェル少尉ですか?」
「おお、矢張り知っていたかアンセル。そうだ、その少尉が部下を川に蹴落とした話をしよう。あれは…」
「ダン、ジャスティン」
ジャスティンは泡を食って振り向いた。遅れてダンが、上体を起こしてゆっくりと其方を仰ぎ見る。
今まさに話材にしていた人物が、木陰から2人を呼んでいた。
近付いてくる小柄な姿に、ジャスティンが席を立った。
「少尉…退院されたんですか?俺の差し入れ見てくれました?」
「あの雑草か?」
「ガーベラです…少尉、ガーベラですよ…」
残念ながら愛でる類に何ら興味の無い相手に、ジャスティンは肩を落として嘆いた。
若き補充兵達は目をまん丸くし、頬を染めて現れた将校に見蕩れていた。
ダンは煙草を消火し、漸く腰を上げて向き直る。
茜色の空の下、夏の風に吹かれて佇む姿が其処に在った。
「ダン…良かったら、その…散歩にでも行かないか」
何だか妙にしおらしい誘いを受け、ダンは肩を竦めた。
「ええ、構いませんよ。少尉」
演説を続けるジャスティンを残し、2人は久方振りに顔を合わせる互いを見やった。
盛夏の西日が注ぐ芝生の上、暫し風の音だけが包み、やがてくっきりと並ぶ影が歩き始めた。
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